我々は、Seyfert 2銀河であるNGC 1068を、すばる望遠鏡に搭載された、中間赤 外線試験観測装置(MIRTOS)と、近赤外線撮像分光装置(IRCS)を用いて観測した。 中間赤外線(N バンド、8.8 - 12.3 μm)でのデコンボリューションした多波長 での撮像結果と、近赤外線(Lバンド、2.8 - 4.2 μm)でのシーイング下での分 光結果から、中心核付近のダスト雲の分布が5 pc (0.07秒角)の空間分解能で明 らかになった。本講演では、観測・解析についての紹介と、下記の解析結果につ いての詳細を述べる。
我々が観測した波長域には、それぞれ、硅素系ダスト(9.7 μm付近)と炭素系ダ スト(3.4 μm付近)の吸収・放射構造が存在する。観測された波長エネギー分布 (SED)あるいはスペクトルから、連続波の温度・放射率とともにダスト吸収の光 学的厚みを測定した。これらのパラメータの空間分布から、中心核の南北 70 pc(1秒角)の領域について、下記のような結果が得られた。 (1)この領域では、 中間赤外線の連続波は200 - 250 Kの暖かいダストから放射されており、近赤外 線の連続波は紫外線光子の吸収の際に一時的に加熱されたVery Small Grainから 放射されている。 (2)硅素系ダストと炭素系ダストの吸収の大きさの比は場所に よって異なり、視線方向の温度構造が空間方向にも構造を持つことを示唆してい る。さらに、硅素系ダストの吸収として観測される冷たいダスト雲が、電波ジェッ トが方向を変えている位置に存在する。 (3)中間赤外線で放射率の高い、暖かい ダスト雲が、中心核から北に50 pcほど、扇形に広がっている。また、中心核を とりかこむように、直径 20 pcにわたって、暖かいダスト雲が存在する。この、 直径20 pcの暖かいダスト雲がSeyfert銀河の統一理論で提唱されているダスト・ トーラスであると推測される。